占う人まで困る占い
人が占いをしてみたいなと思うときは人生の転機であったり不運に見舞われている時が多いんじゃないでしょうか。
何事かあるときには神様に聞いてみようとおみくじを引いてみたり、観光地なら旅先のことだしあきらめもつくからといかにもどうでもいいガチャガチャ形式占いマシーンで適当に占ってもらったり。
だいたい「案外そうかも」といった内容があって、楽しんでいるのか驚いているのか疑っているのか不明な混乱を得ては、そこには書いてはいないが確実な事実である「今自分は占いをしてもらわないとならないくらいに弱っていて判断ができない」「自分以外のオピニオンが欲しい」という方をゲットします。その程度のものが占いのはずでした。あの人に会うまでは。
過去最高に人生が終わったなと言わんばかりのある時。当時近所だったショッピングセンターの一角にある手相占いに、そっと入っていきました。普段は通り過ぎていた、いかにも貧相そうな佇まい。強いて言うならパーテーションがあるから占ってもらっているのがばれずに済むな程度のガードしかできないところです。
座っていたのは普段お見掛けしないタイプの人ですねとしか形容できない占い師さん。少なくとも浮世の人ではない様子。
手を出してくださいと言われ、占い師さんはしげしげと眺め、しばし無言ののち、おもむろに時間がかかりますがいいですかとおっしゃいます。しかもはなはだ困惑した顔をしていらっしゃる。
本当にはっきりと困惑を隠そうともしていません。果たして占いの結果は一年単位で十年分出されていき、それを述べながら書いていく占い師さんも、聞いているほうも、これは困ったなとしか言いようのない紆余曲折の内容なのです。
すみませんがこれほんとなんですかとお互い言いたくても言えないくらいにはものすごい浮き沈みぶり。お金払うときにためらう程度にものすごすぎる”(-“”-)”
そしてその後なのですが,この占いが見事に当たりました。これほんとですかなんて疑った顔してごめんなさい。一緒に困惑してくださってありがとうございました占い師さん。
ショッピングセンターの片隅での所在無げな様子からは想像できないくらい、貴方が凄腕であったことは確かです。
このような経験があって、どんな気持ちで占い師さんのところで占ってもらうのがいいのか興味がわいてきました。ネットで調べているとここの占いのサイトに占いを活かす方法が詳しく書いてありました。当たる占いを経験したからわかることですが、読めば読むほど納得です。今では占ってもらう時はそのような気持ちで鑑定してもらうようになりました。
占い師の、とある一日
占い師は、どんな毎日を過ごしているのでしょうか?
マスコミが伝える有名占い師とは違う、もっと普通の女性占い師の一日をのぞいてみたいと思いませんか?
このストーリーは、複数の占い師の実体験をもとに再構成してあります。
【占い師、アヤ(仮名)二八歳の、とある一日】
日野アヤの一日は、目覚ましの鳴らない朝から始まる。ベッドから起きてテレビのスイッチをつける。ちょうど朝の占いコーナーがはじまったところだった。
トーストを焼き、コーヒーをいれる。二年前、派遣の事務員として働いていたころは、朝食を食べる余裕もなくあわただしくマンションを出てギュウ詰めの電車で通勤していたのが信じられない。
「今日のおひつじ座は、十二位で、ラッキーフードは、蜂蜜トースト? おしい!」アヤは、イチゴジャムをぬったトーストをほおばった。
雑誌やテレビの占いは、占い師が監修していても、実態はほとんどライターが書いている。だから、アヤも今は、お遊びと思って見ている。派遣で働いていたときは知らなかったので、真剣に朝の占いを見ていた。
テーブルの上の、通販会員用の冊子を手に取り、ぱらぱらとめくる。「ちゃんと占い師が書いてる占いもあるんだけどね」通販会員冊子の最後のページの『今月の占い』は、アヤが連載している。
テレビや雑誌などの占いは、有名占い師にならないと依頼されないが、地域のフリーペーパーや、インターネットのウェブマガジンなど、無名占い師が活躍できる媒体はいくらでもある。ただし原稿料もピンキリだ。
「十二星座、各百文字の合計千二百字で五千円。紙媒体の仕事としてはかなり安いけど、占い師『アーヤ』って名前を出してもらってるし」
占い雑誌の占い記事は、出版社によって違うが、ベーシ1万円程度だ。イラストも入るので、文字数は多くない。通算すれば原稿用紙一枚あたり五千円くらいになる。定期的に雑誌に書くことができればいいが、なかなかそうはいかない。
現在の占い原稿の主流は、インターネットと携帯だ。
コーヒーを飲み終えたアヤは、パソコンを開いた。メールで占い原稿の依頼が届いていた。携帯占いサイト「占いの花園」の占いメニュー。「彼はあなたのことをどう思ってる?」とか「あなたの今週の恋愛運気」などの項目ごとに、回答文を書く。一つの回答文は、二百文字程度。原稿料は会社によって違っていて原稿用紙一枚当たり、六百円から千二百円くらいまでかなりの幅がある。
紙の原稿もウエブ原稿も、原稿料から一割の源泉税が引かれる。
「さて、仕事にとりかかりますか」
アヤは、昼までに、回答文を二十パターン、四千文字(原稿用紙換算十枚分)の原稿を書き上げた。
さっと着替えて身支度をすませ、マンションを出た。今日は、占い師の友達と情報交換を兼ねたランチなのだ。
待ち合わせした駅に着くと、町田翔子(仮名)が改札前で待っていた。二八歳で同じ年の翔子とは去年、フラワーアレンジメント講座で知り合った。お互い占い師だとわかって驚いたが、それから急速に親しくなった。
翔子は、明るい花柄のワンピースにパンプス。休日のOLといった感じだろうか。
「アヤ そのネイル、かわいい!」
アヤの指先のレモンイエローのネイルアートを、翔子がめざとく見つけた。パソコンのキーボードを打つのであまり長くはできないが、派遣で働いていたときはそもそもネイルアートなんてできなかった。
お互いをながめて思う。
「あたしたちって、占い師に見える?」
「見えないと思う」
イタリアンランチのある、ファッションビルヘ向かう。平日なのに賑わっている。若い女の子もいるし、おばさまグループもいる。このなかに自分たちのほかに占い師がいるかもしれない。占い師は見た目じゃわからない。翔子と会ったときだって、フラワーアレンジメント講座で、占い師に会うとは思わなかった。
占い師のイベントの打ち合わせ
ランチを食べながら、最初の話題は、占いとは一見、なんの関係もない税理士の件だ。
「アヤ。税理士さん紹介してくれて助かったわ。来年の確定申告が楽しみよ」
派遣で働いていたときの人脈が役に立った。
「よかった。翔子には、名刺とチラシの印刷屋さんを紹介してもらったから」
「お互い、個人事業主だものね。これからも情報交換していきましょ」
占い館の社員でなければ、占い師はひとりひとりが個人事業主だ。税金の申告など経理も、顧客開拓のための営業も、自分自身の健康管理も、すべて自分でしなくてはならない。
大変だけど、そのぶん、大きなやりがいがある。がんばればその分、自分に返ってくる。派遣の事務員だったときは、誰のためになぜ仕事をしているのか、ぜんぜん実感がなかった。
「来週の占いイベントの件だけど」
翔子に言われて、アヤは手帳を取り出した。そう、自分自身のスケジューリング、つまりマネージメントも重要な仕事だ。
「土日とも出られるわ。大丈夫よ」
翔子が所属している占いの館のイベントにアヤも出ることになったのだ。一日五時間で出演料は一万円。占い師が対面で仕事を受けるとき、顧客ひとりあたりいくらという歩合制の場合と時間給の場合がある。今回は時間給だ。アヤは気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ翔子。あたしも何か衣装用意したほうがいい?」
占いの館に出ているときの翔子は、黒のロングドレスに紫色のヴェールをかぶっている。それが翔子の仕事服だ。けれど、アヤは、喫茶店での対面鑑定しかしたことがないので、仕事服を持っていない。
翔子は、一瞬首をかしげて、肩をすくめた。
「いっそ、コスプレ占いってのはどう? 巫女服とかいいんじやない?」
「冗談! だいたいタロットに巫女服って、ありえないでしよ」
「じやあ、魔女服とか? セクシー魔女とか?」
「無理!」
結局、翔子がいくつか持っているというレースのヴェールを借りることになった。
ランチのあと、デザートもしっかり平らげて店を出た。
喫茶店での対面鑑定
アヤは、駅近くの喫茶店で個人鑑定の予約が入っている。
約束の時間よりすこし早めに喫茶店に向かう。個人事務所を持っていない占い師が対面鑑定するときは、喫茶店を使う。占いをするので、席と席の間かできるだけ離れていて、あまりうるさくない喫茶店を探して、いつも使っている。
初めての客が分かるように、テーブルにタロットカードを置いておく。
喫茶店のドアを開けて入ってきた若い女性が、どこか不安げな顔であたりを見まわしている。
アヤは立ち上かって、軽く会釈した。
若い女性が、テーブル上のタロットカードに目をとめた。アヤは女性に語りかけた。
「はじめまして。お電話で依頼してくださった斉藤さんですね」
女性がうなずく。
それぞれに飲み物を注文してから、さっそく相談を聞く。
アヤは、対面鑑定を一石の方法で引き受けている。一つはインターネットの自分のサイトから。そもそも占いで初めてお金を得たのもブログヘのメールからだった。
好きな占いの話をあれこれブログに書いていたら、鑑定してほしいというメールが来るようになったのだ。最初は無料で鑑定してメールで返信していたが、相談者が増えて待ってもらうようになると、お金を払うから、と言われるようになった。
それからすぐ対面鑑定もするようになった。今はインターネットのほかに、チラシを作って、近所のパワーストーンを扱っている雑貨屋や、ネイルサロンにも置いてもらっている。最初はパソコンで印刷していたが、今は翔子が紹介してくれた印刷屋で刷ってもらっている。一度鑑定してくれたお客には、季節ごとに匸言占いのはがきを作って送っている。
「来週の上日は、イベントに出るから、よかったら来てみてくださいね」
鑑定を終えて、若い女性はさっきまでとはまったく違う、すっきり晴れやかな顔でうなずいた。
「ありがとうございます! ラッキーストーンはローズクォーツですね! みてもらって本当によかったです!」
この瞬間、占い師をしていて心底良かったと思う。
女性が財布を取り出した。鑑定料金は一時間八千円。高校生の場合は、一時間五千円の学割料金に設定している。イベントでは、15分千円とか、30分三千円というような設定が多いが、対面鑑定の場合、何人も続けてみるわけではないので一回一時間以上、二時間以内と決めている。
「またすぐ来ます! 今度は友達連れて!」
占いの仕事は、こうして口コミで広がっていく。お客に満足してもらえる鑑定をすることが、なにより一番の営業になる。そのためには、誠実でいること。アヤの鞄の中には、手作りのローズクォーツのお守り石も用意してある。希望者には五百円で販売もしているけど、こちらからすすめたりはしない。
アヤは、お金を受け取り、領収書を渡した。
「次に占うのは、状況が変わるか、少なくとも1ヵ月以上経ってからよ」
メールで占っていたとき、毎週、毎日のように占いを依頼してくるお客がいた。同じようなことを何回も占っても無意味だし、占いに依存してしまうのは、決していいことではない。
占い師として人に頼られることは正直に言って嬉しいし気持ちがいいものだ。それだからこそ相談者が占いに依存しないように意識して気を配っている。
反対に占いを単なる商売と思っているような人であれば、これはありがたい客ということになってしまうのであろう。
そこに占い師というものの矛盾があるのである。
問題が発生して占ってもらいたいと思うとき、人は必ず不安を抱えている。もし世界中の人が全員幸せだったとしたら、占い師というものは、必要なくなってしまうのかもしれない。
アヤは、しっかりと女の子を見送ってから喫茶店を後にした。
夜の電話占い
夕食用の食材を買ってマンションに戻った。今日の夕食は温野菜たっぷりのパスタ。ひとり暮らしだから、自分なりに健康に気をつかっている。
夕食後、寝るまでの時間は、電話占いの時間だ。アヤは、電話占いの会社に、占い師として登録している。
電話占いをしたい時間に、転送設定をすると、占い会社にかかってきた電話が、占い師の自宅電話に転送されるようになっている。
対面鑑定、電話鑑定、メール鑑定のいずれも、個人で受けるのと、占い会社経由で受ける方法があるが、占い会社経由だと当然マージンを取られる。
電話占いの場合、顧客は二十分で三千円を払うが、アヤが電話占いの会社から受け取るのはそのうちの三割弱の七百円だ。
電話が鳴った。転送電話の発信音を確認してから応答する。
「はい、占い師アーヤです」
「あの、恋愛運をみてもらいたんですけど」
話を聞きながら電話片手に、タロットカードをまぜあわせる。
占い会社経由だから、おかしな客はこないし、占い師本人の電話番号が公開されることもない。マージンがもったいないと独立していった占い師が、ストーカー的な客に悩まされ、鑑定料金の未払いに困り果て、さらには広告料やら電話転送代などの設備費が思った以上に大変で、結局、電話占いの会社に戻ったという話を聞いたことがある。
二時間待機している間、ほとんど続けて休みなく電話がかかってきた。午前零時を過ぎたところで、転送設定をオフにした。時給にしたら二時間で約四千円になる。
「今日の仕事はこれで終わり」
寝る前にメールをチェックすると、電話占いの会社から、占い師忘年会のお誘いメールが届いていた。
「去年の忘年会はすごかったのよね。一次会はみんなお上品に飮んでいたけど、二次会で、髪をつかみ合っての大げんかになって」
占い師は個性的な人が多い。だから、おもしろい。
アヤは、出席します、という返事を出した。
新規メールが届いた。以前、対面鑑定したお客からのメールだった。
『アーヤ先生! また占いお願いします!』
正直、先生って呼ばれるのは慣れない。だけど、「ありがとう」つて感謝される仕事だということに、誇りを持っている。
悩みを持つ人がいなくならない限り、占い師という仕事もなくならない。
アヤは、返信メールを送ってから、ネットショップで占い関連の本を数冊注文した。翔子に教えてもらったホラリー占いの専門講座に行くので、その前に予習しておくつもりだ。ホラリー、ジェオマンシー、六壬、梅花心易……まだまだアヤの知らない占いがたくさんある。
シャワーを浴び、タロットカードを使った瞑想をしてから、ホラリー占いの本を手に、ベッドに入った。
アヤは、小さい頃から、占いやおまじないが好きな、ちょっと変わった子だった。人と同じことをしようとがんばっていたこともあったけれど、占い師になったらそんなこと、気にならなくなった。
占いを学ぶことが楽しい。人や自分を占うことが楽しい。
占いに関わる業界にいることがうれしい。
占い師になって本当によかった!と心から思う。
結婚しても家族が増えても、これからもずっと占い師を続けていこうと思っている。今は若い女の子からの恋愛相談が多いけれど、嫁姑問題や子供の問題や、年齢を重ねていけば、その年代ごとにいろんな悩みがあるはずだからだ。
占い師、日野アヤ、28歳。まだまだ占い師として修行中だ。